ChatGPTに社内のトラブルを相談したら、それらしい答えが返ってきた——そんな経験から、「情シスの仕事はAIに任せられるのでは?」と考える方が増えています。
私たちはAIを使った社内IT運用サービス(AI情シス)を開発している当事者です。その立場から、期待と現実の両方を、できるだけ具体的に整理します。
AIが実際に得意なこと
1. 休まず観測し、記録し続けること
AI以前に、機械の仕組み全般が得意なことです。LAN上の端末の発見、応答時間の測定、変化の検出。人間なら退屈で続かない定点観測を、24時間365日、同じ品質で続けられます。
2. 大量の記録から、関連を拾い上げること
障害が起きたとき、「同じ時間帯に他で何が起きていたか」を記録から探すのは骨の折れる作業です。複数の異常を「同じ原因かもしれない候補」としてまとめる、発生前後の記録を抜き出して並べる、といった整理はAI・システムの得意分野です。
3. 技術情報を、日本語に翻訳すること
測定値やログの羅列を、「何が起きているようか」「次に何を確認すべきか」という文章に変換する。ここは生成AIの進歩が最も効く場面で、専門用語の壁を下げてくれます。
現状のAIの限界
限界1: あなたの会社のネットワークを観測していない
汎用のAIチャットは、一般論を知っていても貴社のLANのいまを知りません。「ネットが遅い」と相談すれば教科書的な切り分け手順は返しますが、「いまGatewayの応答は正常か」「昨日から増えた端末はないか」には答えられません。この2問に答えるには、平時の応答時間を先に測って持っておく必要があります。判断材料は、観測なしには生まれないのです。
限界2: もっともらしく断定してしまう
生成AIは、根拠が不十分でも自信ありげな文章を作れてしまいます。社内ITの判断でこれは危険です。「おそらくDNSの問題です」という断定を信じて対処し、実際には別の原因だったとしたら、復旧はかえって遅れます。AIの出力は「観測にもとづく候補」と「もっともらしい推測」を区別して扱う必要があります。これは、人が障害の記録を書くときに求められる確認できた事実と推測を分けて書くという原則と、まったく同じものです。
限界3: 責任を取れない
機器の設定を変える、再起動する、復旧したと宣言する。これらは業務への影響を伴う意思決定であり、間違えたときに責任を引き受ける主体が必要です。AIはその主体になれません。ただし、だから人が一人で背負えばよい、という話にもなりません。不審な電話への初動のように、その場でもう一人に確認できる経路をどう用意するかは、AIの守備範囲とは別に決めておく必要があります。
だから、分業する——AI情シスの設計思想
この整理を踏まえて、私たちのAI情シスは「AIに任せる/人が担う」の境界を最初から設計に組み込んでいます。
AI・システムが担うこと——LANの継続観測と端末台帳の維持。異常の検知と、関連事象の整理。発生前後の記録を証拠としてまとめ、原因候補を「確認できた事実・未確認の事項」を分けて提示すること。
人が担うこと——端末情報の確定。追加測定の実行判断。対処の実施と、業務影響・確定原因の記録。実際に使えることを確かめたうえでの復旧確認。そして必要なら、ネットワーク構築を本業とする弊社エンジニアへの引き継ぎ。
AIが勝手に機器を操作しない、根拠のない断定をしない、勝手に「直りました」と言わない。これは機能の不足ではなく、誤った断定と意図しない操作を防ぐための意図的な設計です。なお、調査の要約に使うLLMは自社管理の基盤で動かす方針で、お客様のネットワーク情報を公開型の生成AIサービスへ送らない設計としています。
AI情シスは、企業ごとに個別カスタマイズして提供する製品です。導入はPoCからご相談いただけます。AIと人の役割分担で設計の詳細を公開しています。
まとめ
「AIに情シスを任せられるか」への現時点の誠実な答えは、**「観測と整理は任せられる。判断と操作は任せるべきではない」**です。万能の担当者を期待すると失望しますが、優秀な観測係・整理係として使えば、人は判断に集中できます。その分業が成立したとき、AIは「便利そうな何か」から、社内ITを「分からないままにしない」ための道具へ変わります。